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【 2020年ぶりの産地での買付 】
今年の2月下旬、産地での買い付けと視察のためにケニア・エチオピアへ飛びました。
パンデミックにより閉じていたボーダーが開き、本格的に現地での買い付けをおこなうのは3年ぶりのことでした。私にとっては人生で初めてのコーヒー産地への訪問・買い付けとなりました。
コーヒーは農作物なので、栽培される地域や気候によって収穫期が異なります。
赤道に近い、いわゆるコーヒーベルトと呼ばれる地域が主なコーヒー栽培地になりますが、それぞれの収穫期が異なるため、私たちロースターは一年を通して新鮮なコーヒー豆を提供することができます。
ケニアの主な収穫期は10〜1月がメインの収穫期。
フライクロップと呼ばれる早い収穫期も存在しますが、私たちはメインの収穫からいつも買い付けを行っています。
コーヒーチェリーは収穫されるとすぐに精製所に移されるので、10月半ばから1月までは精製所もフル稼働で届けられたコーヒーチェリーを精製しています。
私がケニアを訪れたのは2月下旬、収穫・精製のシーズンは終わっていましたが、買い付けシーズンの真っ只中で、世界中からロースターや商社のバイヤーがコーヒーを買い付けに訪れていました。
【 エクスポーター訪問・買付カッピング 】
成田空港を出発して約1日かけて、現地時間の午後にナイロビ空港に着きました。14時ごろで気温は27℃、ケニアは乾季のため非常にカラッとしていて、手元のスマートフォンの表示では湿度が0%となっていました。
2020年にできたばかりという高速道路を走って、空港から市街地へ入ります。
空港から市内に入るまでに車内から見える景色は高層ビルや綺麗に整備された公園など、想像していたよりも遥かに都会なものでした。ケニアではインフラ整備がどんどん進んでいるようです。
近年では都市部の拡張が加速してきており、農地を売り払ってしまう生産者も多いようで、コーヒーの生産エリアが減少しているという話も聞きました。
今回の訪問の目的は今シーズン取り扱うケニアのコーヒーの買い付けです。
滞在中2つの*エクスポーターを訪問して、カッピングを行いました。初日にドーマン社、二日目にはイベロ・ケニアというエクスポーターを訪問しました。
注釈 : コーヒー生豆を国外のバイヤーに販売・輸出する輸出業者)
C.Dorman : 1950年にチャールズ・ドーマンとエレン・ドーマンによって設立されたエクスポーター
買い付けの場で飲むことのできるコーヒーは収穫されて間もないフレッシュなコーヒーばかりです。果物などを思い浮かべると、新鮮な方が美味しさを楽しめるイメージがありますが、コーヒーは少し異なります。
産地でのカッピングは、ロースターや、コーヒーショップで行うカッピングと基本的に同じように行いますが、味の取り方などは違います。まず、コーヒーが精製の完了から間もないので、風味がわかりづらいものが多く、それは開いていないと表現されたり、風味や質感がラフだったりします。
また、ローストも自分が飲み慣れている深さではなかったり、水質や、グラインドサイズ、温度なども完全ではない場合があります。そのような環境で、コーヒーの品質や風味を見極め、日本に到着して一杯のコーヒーになった時の美味しさを予想(完全には不可能ですが)して、慎重に評価し選定を行いました。
私たちが普段焙煎して飲むケニアのコーヒーも強い酸味を持ちますが、フレッシュな場合にはより一層感じられます。さらにそう言ったフレッシュなケニアだけを一日中、それも200種類以上カッピングするとなると、終わる頃には口の中が痺れていました!
二日目のIbero Kenya
【 アウトターン 】
ケニアでは10月の第1週をWeek1として収穫やウォッシングステーション (ケニアではファクトリーと呼ぶ) での精製作業が始まります。私たちはweek21にケニアを訪れていました。ファクトリーで精製される全てのコーヒーには、アウトターンと呼ばれるlot識別番号が付与されています。アウトターンとは収穫されたタイミングに応じて分けられたマイクロロットのようなものです。
品質や収穫週に応じて分けられており、同じファクトリーで精製されたコーヒーも厳密に仕分けされて管理されています。
収穫・精製されたコーヒーは10月1週目のweek1以降届き続けるので、ドーマン社やイベロ・ケニアなどのエクスポーターでは毎日大量のサンプル焙煎と品質評価のカッピングが行われています。
10機のサンプルロースターが一日中フル稼働
買い付けのカッピングの最中、アウトターンによるlotの選別・管理のシステムに1人静かに興奮していました。ケニアではAAやABなど、生豆のスクリーンサイズと品質による等級付けが行われています。これらの等級選別はファクトリーでの精製の後にドライミルに移されてから行われますが、等級選別前はアウトターンが同一であれば同じ週に精製された同一lotということになります。
同じ週に精製された同一ウォッシングステーションのAA、ABを飲み比べたのはこの日が初めての事だったので、非常に新鮮でした。等級によってどのようにコーヒーの味わいがが異なるのか、普段は比較することのできない味覚体験をできたことはこの度のハイライトの一つです。小さなディティールですが、またコーヒーについて新しく学ぶことができた嬉しさで、カッピング中とても興奮していました。
農家の方がコーヒーチェリーを持ち寄った段階からカッピングテーブルに並ぶまで、ケニアのコーヒー生産の場のほとんどで厳密にlotの選別と管理が行われていることは本当にすごいことだと思います。
このコーヒーはどこの国で作られて、誰が作ったのか。
シングルオリジンにとって非常に重要な要素ですが、さらに細かい部分までトレーサビリティの追求が国全体で徹底して行われていることに、ケニアのコーヒーの美味しさの理由が見えた気がしました。
【 農園訪問 】
カッピングを終えて、買い付け候補のロットを選んだ後は、どの程度の量を買い付けることができるかを確認します。希望が通ったロットを確認し、オーダーを最終決定するためにサンプルを依頼しました。最後にもう一度サンプルのカッピングを行い、品質に違いが見られなければ買い付け内容が確定します。
輸出手配の時期や方法などの詳細を詰める間に、カッピング終了後2日間にわたってファクトリーの視察を行いました。ここでまた1つのハイライトとして、人生で初めてコーヒー農園を訪れることができました。等間隔で並ぶコーヒーツリーの様子はこれまで何度も書籍やインターネットで見てきましたが、ツリーの間をすり抜けるように歩きながら、葉やチェリーを触ってみると、コーヒーが農作物であることをより強く感じることができました。この果実の種を焙煎してコーヒーとして飲んでいると考えると、少し不思議な感覚です。
訪れた時期はほとんどの木が収穫を終えていたため、熟したチェリーにはお目にかかれませんでしたが、小さく花を咲かせたツリーもあり、ジャスミンのような甘い香りも楽しむことができました。満開の時期のコーヒー農園はとても良い匂いがするに違いありません。想像しただけで気分が高まります。
コーヒーの花
農園を案内してくれた、FCSで働く農学者
農園の視察では、管理されている木と放置された自然状態の木を見せてもらいました。例えば、剪定が行われないコーヒーツリーは、樹高が3メートル近くにもなり、細長い状態でしたが、選定されたほとんどの木は私と同じくらいの高さ(約170cm)で、下部からしっかりとした枝が茂っていました。
選定が行われないと、コーヒーの木は茂ってしまい、光や空気が木の全体に行き渡らなくなります。そのため、葉や枝が多い木はこれらの部分を成長させるためにエネルギーを消費し、多くの花や実を生産しない可能性が高まり、収量が減少するとのことです。また、害虫や病気も、密集した木の中の暗く湿った枝の中で繁殖する可能性があります。
また、コーヒーツリーは放置すると年々収穫量が減少するため、数年ごとにツリーの上部の枝を切り落とす必要があります。訪問した農園では、6年ごとにこの作業を行っていると話していました。すると新しい幹と枝が育ち、十分な量の実を付けるようになるそうです。
上部の幹が切り落とされたコーヒーツリー
【 ファクトリー訪問 】
農園を訪問した後、いくつかのファクトリーを見学しました。
主要な収穫作業が終わったファクトリーは、スタッフがいない場所もありましたが、マネージャーの皆さんは休み中にも関わらず親切に対応してくれて、有り難く見学させていただきました。
ファクトリーマネージャーの方々は、精製工程やルーティン、施設内の設備などについて詳しく説明してくれました。彼らは生産者組合である「Farmers Cooperative Society」に所属し、メンバーから選任されたマネージャーとして活動しています。ほとんどのファクトリーでは、2〜3年ごとにマネージャーが選出されるため、スタッフの意見も尊重されているようでした。中には高いリーダーシップとスタッフからの信頼を得て、8年近くマネージャーを務めている方もいて、彼らからはコーヒー生産に対する熱い情熱を感じることができました。
マネージャーたちは、スタッフが自分たちのガイドラインに沿って仕事を行なっているか、厳しく見守っています。そしてトレーニングが必要なスタッフには適宜トレーニングを行います。
女性のファクトリーマネージャー、ベアトリス
ングングル・ファクトリーのマネージャー、エフリム
キエニ・ファクトリーのチェアマン、チャールズ
ケニアでは一般的にディスクパルパーを使用して果皮を取り除き、ウォッシングチャネルを使って比重選別を行うなど、精製プロセスで多くの水が使われます。
ファクトリーの多くは近くの川から水を取っているようですが、気候変動の影響を受けて水の確保に苦労している場所もあるようでした。
そういった中で、中南米で見られるようなエコパルパーなどの導入により、徐々に水の循環利用が進んでおり、コーヒー生産に変化が見られています。
エコパルパーの使用に関しては、一日で処理できるチェリーの量も多いようで、生産性の観点でも改善が見られているようです。
伝統的なディスクパルパー
ガクユイニ・ファクトリーにある、コロンビアなどでみられるペナゴス・エコパルパー
どのファクトリーも基本的な工程や設備は殆ど変わりありませんでしたが、毎日大量のチェリーが届く中、各工程を厳密に管理して品質の向上に努める姿勢がケニアのコーヒーを特別たらしめているのだと思います。
この旅では選りすぐりのケニアのコーヒーを買い付けてきました。
最初にリリースしたAA Githembeは店頭・オンラインショップどちらでもお楽しみいただけます。
これからまだ数種のケニアのコーヒーのリリースを控えているので、そちらもお楽しみに。
最後まで読んでいただきありがとうございました。