2025年、最初のオリジントリップはエチオピアへ行ってきました!
アフリカへは例年2月中旬から3月上旬にかけて買い付けのために訪れていますが、今回は生産状況をより早期に確認するため、1月中旬に向かいました。
エチオピアは、アフリカ大陸東部に位置し、歴史的にヨーロッパ諸国による植民地支配を受けなかった唯一のアフリカ諸国として知られ、「アフリカ最古の独立国」とも呼ばれています。そして世界のコーヒー産業、私たち消費国にとっても重要な原産国です。コーヒー生産量は世界5位(2023年時点)を誇ります。
華やかでフルーティなコーヒー、と言ったら真っ先にエチオピアを思い浮かべる方も多いはずです。国内の主要なコーヒー産地は首都から離れた地域に点在しており、それぞれが独自の特徴を持つ産地として発展してきました。
首都アディスアババを中心に見て、主に東西南にコーヒーの生産地が広がっています。
私たちはそのなかでも、主に南部のGedeoゾーンからコーヒーを買い付けています。
羽田空港を深夜に出発し、現地時間の昼過ぎにボレ国際空港へ到着しました。今回は飛行機で18時間ほどで到着です。アディスアババでは、まず長年の買い付けパートナーである※Nordic Approach / Tropiqのチームを訪問しました。
ここ数年、定期的に交流を重ねてきた彼らとの再会は、いつも嬉しいものです。
オフィスでは、エチオピアの現状や今季の収穫状況について情報を共有し、充実した時間を過ごすことができました。
翌日は、ドライミルの視察と今季収穫したコーヒーの品質評価(カッピング)に時間を費やしました。その後、南部の主要都市ハワサ(Hawassa)へ空路で移動。さらにハワサから陸路で南下し、古くからの交易拠点であるディラ(Dila)を基点として、周辺のコーヒー産地を巡る計画を立てました。
※Nordic Approach : ノルウェーはオスロを拠点に活動するスペシャルティコーヒーに特化したインポーター。私たちはロースター設立時から10年間ずっと彼らを通じて生産者と出会ってきました。
ここでエチオピアのコーヒー生産におけるサプライチェーンを簡単に見ておきましょう。
エチオピアではコーヒー生産者の98%が小規模農家といわれています。
多くの農家は0.25から2ヘクタール程度の農地でコーヒーを栽培していますが、その収入だけで生計を立てているわけではありません。彼らは自家消費用の作物栽培や、コーヒー以外の換金作物の生産も並行して行いながら、生活を営んでいます。
小規模生産者は自前の精製設備を持たないため、収穫したコーヒーチェリーをウォッシングステーションへ販売し、現金収入を得ています。このような背景から、エチオピア産コーヒーの一つのロットには数百軒の生産者のチェリーが含まれることになります。
精製所では品質に応じて細かな選別が行われますが、その源流には常に多くの小規模生産者の存在があります。
エクスポーター(輸出業者)は、ウォッシングステーションやドライミルの運営から、国外取引先への販売・輸出まで、一貫した流通管理を担っています。私たちは2020年からSNAP COFFEE TRADINGと取引を開始し、現在も彼らを通じてコーヒーを買い付けています。皆さんにもお馴染みのDancheやChelbesaウォッシングステーションは、このSNAPが運営する代表的な施設です。
ウォッシングステーションはウェットミルとも呼ばれます。これらは輸出業者が運営しているか、垂直統合されています。生産者から買い付けたチェリーを精製(加工)するための施設で、私たちがエチオピア産のコーヒーを販売する時には、通常このウォッシングステーションの名称を用いています。
ここでは品質に応じて精製工程を変えるための選別も行われており、高品質なG1から現地のマーケットに流通する品質の低いコーヒーまで、等級に応じて選別されていきます。このウォッシングステーションでの選別がどれだけ丁寧に行われるかが、コーヒーの品質と美味しさに多大な影響を与えます。
ウォッシングステーションで精製されたコーヒーは、乾燥工程が完了するとパーチメントと呼ばれる状態でドライミルへと運ばれます。
ドライミルは大規模な倉庫設備を備え、パーチメントの保管から最終加工までを担う重要な施設です。
施設内には大型の選別機や脱穀機が並び、品質に応じた徹底的な選別が行われます。特に品質を重視するドライミルでは、最新の機械選別に加えて手作業による細かな選別も実施されています。ここでのロット管理や品質選別の精度が、最終的なコーヒーの品質を決定づける重要な要素となっています。通常はエクスポーターによって運営されているか、垂直統合されています。
今回はDila(ディラ)という宿場町を拠点に、三日間エチオピア南部のウォッシングステーションとシングルプロデューサーの農園を訪問しました。
Sidama : ボンベ、シャンテウェネ
Gedeo : ダンシェ、チェルチェレ、バンコ・ゴティティ、コンガ
Yirgacheffe / Guji : ディムトゥ、
Hambela : ベンティネンカ、ブク・アベル
今回の訪問では、既存の取引先に加えて、将来的な取引の可能性を探るため、新しい生産者やステーションも訪れました。
その一つが、Murgeta Shitaye(ムルゲタ)氏の農園です。
ムルゲタ氏は奥さんとともに5ヘクタールの土地で7つの農園を運営し、栽培から精製まで一貫して手掛けています。農園の入り口ではコンポストが作られていて、堆肥化してコーヒーツリーの栽培にしようしているそうです。ここでは牛糞などにパルプしたチェリーを混ぜたりしているようですが、あまり匂いは感じられませんでした。
彼に農園を案内してもらって、エチオピアのコーヒー農園を初めて見ることができました。エチオピアのコーヒー農園の景観は、ブラジルやケニアなどで見た整然と並んだ樹木や、定期的な剪定により低木化された農園とは対照的に、まるで森の中を歩いているかのような印象を受けます。コーヒーの木々は成人の背丈を優に超え、鬱蒼とした森林のような様相を呈しています。
【ウォッシングステーション】
今回の訪問で、Fuglenとして2度目となるDancheウォッシングステーションの視察を実現することができました!
2019年の初訪問以来、継続して取引を重ねてきた大切なパートナーであり、現在ではFuglenのエチオピアコーヒーを象徴する存在となっています。
Dancheウォッシングステーションでは、2021年からマネージャーを務めるFirehuh Ayakew(以下フレー)から、今季の収穫と精製状況について詳しい説明を受けました。フレーはコーヒーのキャリアは7年と比較的短いものの、農学の専門家としてのバックグラウンドを持ち、Qグレーダーの資格も取得しています。その経歴を活かし、栽培からカップクオリティまで、包括的な視点でコーヒー生産に取り組んでいます。
今季の収穫は11月に始まり12月には終了と、例年より短い期間での収穫となりましたが、豊富な降雨量に恵まれたこともあり、昨年比で約1.5倍の収穫量が見込まれています。コーヒーの収穫量は年ごとに変動する特徴があり、豊作年(表年)と不作年(裏年)が交互に訪れます。今年は表年にあたることから、品質・収量ともに良好な状態が期待できるそうです。Dancheウォッシングステーションでは、買い付けたチェリーの90%をウォッシュト製法で精製し、残りを需要に応じてナチュラル、ハニー、アナエロビック、ハイドロハニーなど、多様な製法で加工しています。
ステーションの入り口には樹齢100年を超える巨大な木が聳え立ち、この場所のシンボルとなっています。Dancheという名は、このステーションが位置する村の名前に由来し、現地の言葉で「美しい」という意味を持ちます。その名の通り、周囲の自然環境と調和した美しい景観は、これまで訪れた数々のウォッシングステーションの中でも際立っていました。
Dancheウォッシングステーションでは950の小規模農家と契約を結び、彼らからコーヒーチェリーを買い付けています。契約するすべての農家が、ウォッシングステーションのサポートを受けてオーガニック認証を取得しているため、このステーションで生産されるすべてのコーヒーもオーガニック認証を取得しています。
たまに契約農家以外の生産者がチェリーを買い取ってもらいに来ることがありますが、それらは全く別のロットとして分けて精製されています。収穫したチェリーを届けるだけでも重労働であり、そうした生産者を無下にはできないとフレーは話します。
環境への配慮として、ステーションでは精製後の水を浄化するためにベチバーグラスを植栽し始めており、周辺環境の保全にも積極的に取り組んでいます。これらの環境配慮型の取り組みは、TechnoserveなどのNPOによる技術指導のサポートを受けながら実施されているとのことでした。
【エクスポーター】
他に印象的だったのはTariku Kare(タリク)というサプライヤー。
彼自身はエクスポーターを運営しており、垂直統合するウォッシングステーションの管理も行っています。コーヒーの生産地で生を受けたこともあり、生涯の大部分をコーヒーと共に過ごしてきたそう。
コーヒー産業におけるタリクの最初の仕事は、乾燥状態に応じてコーヒーをドライングベッドからベッドへ運ぶ仕事でした。1998年のことです。その後彼はコーヒー生産と共に成長しながら、様々なセクションの仕事を覚えていき、16、17歳の頃、その豊富な知識を買われて、生まれ育ったBombeを離れてNensebo地域のウォッシングステーションで働き始めます。そこで9年の歳月をかけてステーションの生産量と品質の向上に尽力しました。
2018年、タリクは最初のウォッシングステーションを購入し、生まれ故郷のBombeに活動の拠点を移します。現在では9つのウォッシングステーションを運営するまでに成長し、特にBombeのステーションには深い縁を感じさせます。ここで働く年長者たちは赤ん坊の頃からタリクを知っており、若い従業員たちは逆にタリクが彼らの誕生を見守ってきた間柄だといいます。タリクは「この土地で高品質のコーヒーを生産し、自分と同じ境遇の生産者たちの生活向上に貢献したい」と語ります。言葉は十分に理解できませんでしたが、ステーションで働く人々との温かな関係性が印象的でした。
今シーズンはコーヒーの収穫から精製までのスピードが例年よりもずっと早いため、当初2月末に予定していた買付け訪問を前倒しして、訪問中に買い付けを行うことになりました。産地を巡ったあと、アディスアババに戻り、Nordic Approachのラボでカッピングを行いました。
SNAPだけではなく、さまざまなサプライヤーから届いたコーヒーをカッピングして、まずはブラインド(銘柄を伏せて)で点数をつけます。
精製を終えたばかりのコーヒーはまだあまり風味が開いていないコーヒーが多く、カッピングにも高い集中力を要します。
カッピングも無事終えることができ、今年も信頼するサプライヤーからコーヒーを買い付けることができました。
コーヒーは、現在最終段階となるプレシップメントのサンプル確認まで進んでいます。輸出手続きを経て、順調にいけばこの春から初夏にかけて日本に到着する予定です。
到着をお楽しみに。
この旅でも沢山印象的な出来事に恵まれました。
最後に旅の様子を写真で紹介します。