ORIGIN TRIP 2025 : ホンジュラス

ORIGIN TRIP 2025 : ホンジュラス

April 20, 2025

3月の下旬から三週間ほど中南米を訪問しました。

前半の約一週間はホンジュラスを訪れ、Santa BarbaraとMarcala地域の生産者に会いに行きました。Fuglenとしては馴染みのある山地ではありましたが、私にとっては初めての土地でした。長年愛飲しているコーヒーを作る生産者に、彼らの土地で会えることに胸が高鳴りながら出発しました。

ホンジュラス

ホンジュラス共和国は中米に位置し、北はカリブ海、南は太平洋に面した国です。首都はテグシガルパで、コーヒーバイヤーの間では世界で最も着陸が難しい空港として知られています。現在は、北西部のサンペドロスーラにも空港が開港したため、より安全に入国できるようになりました。

治安については、自然災害やクーデターによって2000年代に入ってから悪化し、現在ではサンペドロスーラは世界で最も危険な都市とも言われています。しかしコーヒー生産地域に入ると、ゆったりとした雰囲気で治安の悪さをあまり感じません。

私たちがコーヒーを買い付けている地域は、サンペドロスーラから車で2時間ほど南下したSanta Barbara地域と、そこからさらに南西へ2〜3時間ほど移動したMarcala/Chinacla地域です。Santa Barbaraでは過去にNelson Ramirez、Mario Moreno、Danny Morenoといった生産者からコーヒーを買い付けてきました。Marcala地域では、お馴染みとなったMarysabel CaballeroとMoises Herrera夫妻からコーヒーを調達しており、彼らのコーヒーは2017年以降一度も欠かしていません。

San Vicente

今回の滞在ではPena Blancaを拠点とするコーヒーエクスポーターのSan Vicenteを基点に、Santa Barbaraの生産者を訪問しました。私が滞在した期間は収穫初期のコーヒーがドライミルに届く時期で、毎日様々な生産者が自身の栽培したコーヒーを持ち込んでいました。生産者は自分のコーヒーを持ち込むと、ラボで水分値と水分活性値を計測し、QC担当のスタッフからフィードバックを受けます。

エクスポーターと生産者の境界があまり感じられないこの光景は、私にとって新鮮でした。これが特別なことだとしたら、San Vicenteを通じて取引するコーヒーの高品質さが、その特別さを証明しているように思います。一週間ほどの滞在でしたが、ほぼ毎日生産者訪問と農園視察、買い付けのためのカッピングを行い、内容の濃い時間を過ごしました。

私たちをアテンドしてくれたSan Vicenteは3代続くコーヒー輸出業者で、BenjaminやArturoをはじめとするPaz家が運営しています。現在は彼らの両親が代表を務めていますが、特にBenjaminとArturoはスペシャルティプログラムの発展に大きく貢献してきました。彼らを含むスタッフの多くは生産者でもあり、特にBenjaminとArturoはPena Blancaでコーヒーショップも経営しています。彼らは生産者、エクスポーター、コーヒーショップオーナーという3つの視点でコーヒー産業に関わる稀有な存在です。生産者訪問のアテンドから、カッピングの準備、来客時の食事の手配まで全てを担当し、収穫期には休む暇もないようです。

様々な理由が重なり、この3年間はSan Vicenteとの取引ができていませんでした。まだ大きなロースターではない私たちには、全ての産地から自力でコーヒーを輸入するのは難しく、多くの場合は専門商社のサポートを受けています。2022年からの3年間は彼らにアクセスできず、もどかしい思いをしていました。

Santa Barbaraのコーヒーは、ホンジュラスや中米の中でも特別だと感じています。私はこの土地のコーヒーが大好きで、再びここからコーヒーを買い付ける機会をずっと待ち望んでいました。今回は4人の生産者を訪ね、今年の収穫状況やボリューム、現在の課題や今後の展望について直接話を聞きました。

ホンジュラスに限らず中米全体で、年始に大雨が降ったことが収穫のタイミングに大きな影響を与えています。通常は分散して降る雨が一度に降ったため、エリアによっては収穫のピークが同時に訪れ、ピッカーなどの労働力確保に苦労したそうです。繁忙期にピッカーを確保するには他の農園より高い賃金を提示する必要があり、資金的に余裕のない農園では収穫量が減少しています。

Benjamin Paz

Benjamin Pazの農園La leonaでは、様々な品種を実験的に栽培したり、一部の区画でリジェネラティブオーガニック農法を導入しています。シェードツリーも土地やコーヒーに合う品種を探しており、海外から種を仕入れて栽培したものの、土壌への影響や成長速度の問題でうまくいかないこともあるため、土着品種のシェードツリーへの移行を計画しているとのこと。若木も多く植えられており、この農園の今後の発展が楽しみです。

リジェネラティブ農法を試験的に導入した区画では、土壌が他の区画と全く異なり、柔らかい土にコーヒーツリーの根が長く伸びていました。この区画のPacas品種をカップする機会を得ましたが、カップクオリティは現段階では他の区画より劣っています。私の限られた経験と視覚的な判断ですが、農園の健康状態とカップクオリティは必ずしも相関せず、コーヒー栽培の複雑さを実感しました。

この旅で何度も考えさせられたのは「コーヒーのクオリティとは何か」という問いです。採点フォームを使ったカッピングで点数をつけるという意味でのクオリティ。85点より90点のコーヒーが優れているとされ、高価格で取引されます。消費者も明確で特別なフレーバーに感動することがあります。今回88点をつけたコーヒーの農園を訪れましたが、コーヒーツリー自体はあまり健康的でなく、収穫量も少ないようでした。

一方、スコアには現れない農園の環境づくり、健康的なコーヒーツリー、豊かに実ったコーヒーチェリー、そこで働く人々の存在。その土地を訪れて初めて感じる、コーヒーを取り巻く美しさや、必ずしもカップに現れないものの価値。明確な答えは出ていませんが、新たな問いに出会えました。

Benjaminは自らの知識を積極的に他の生産者と共有し、地域全体の品質向上に大きく貢献しています。あちこちの農園に案内してくれた彼は、すれ違う人々に声をかけながら走り回り、間違いなくSanta Barbaraのコーヒー生産の中心的存在です。

Mario Moreno

Fuglenで最初にMoreno一家のコーヒーを取り扱ったのは2016年で、Marioの兄弟Dannyのコーヒーでした。翌年、忘れられないMarioのEl Guayabo農園のコーヒーに出会い、その後数年間彼のコーヒーを購入してきました。今回は2019年以来の訪問となりました。今は亡き彼らの父親Daniel MorenoがEl Filo農園でコーヒー栽培を始め、息子たちに区画を分け与え、家族でコーヒー生産を行ってきました。

収穫したチェリーを精製するマイクロミルも家族共有のもので、乾燥工程では家族が集まって顔を合わせながら丁寧に手作業で選別を行います。これは家族の行事のような時間だそうです。実際にドライングベッドで乾燥しているパーチメントは、不要物が徹底的に取り除かれ、驚くほど白く輝いていました。San Vicenteのスタッフによると、Moreno一家のコーヒーがドライミルに届けられる際は、他の生産者よりも選別が厳しく行われているため、ミルでの選別工程がほとんど必要ないとのことです。

先述したEl Guayaboは収穫量の少なさから一度コーヒー生産を中止したようです。2年前に土地を兄弟と従兄弟に譲り、Mario自身は農園の高所にある区画で新しい品種の栽培を始めています。これらの品種は最初の収穫が2年後となるため、今後の収穫や農園の変化に期待しています。

Piedras Amarillas(ピエドラス・アマリジャス)では、2017年から新たにPacas、Bourbon、Geisha品種の栽培を始めています。急な傾斜の山沿いに広がるこの農園では、谷底から冷たい風が吹き上がり、夜間の気温を下げています。コーヒーチェリーは日中に十分な日光を浴び、夜は冷涼な環境で育つことで、ゆっくりと熟成することができます。この十分な時間をかけた熟成過程が、コーヒーに美しい酸味と複雑な風味をもたらします。しかし今年は気温低下が厳しかったようで、寒さによるコーヒーツリーへのダメージも多く見られました。。

Heyviz Sagatsume

El Dorado村に位置するSagatsume家も、家族でコーヒーを栽培する生産者です。私たちは昨年から彼らのコーヒーを購入しています。父親のPedroと5人の子供のうち3人の息子がコーヒー生産に携わっており、今回はHeyvisが彼らの農園Los Quetzalesを案内してくれました。

農園のモチーフであるQuetzal(ケツァル)は中米の一部で見られる美しい鳥で、世界で最も美しい鳥とも言われています。この農園も、私がこれまで訪れた中で最も美しい農園でした。21ヘクタールの広大な土地のうち、2ヘクタールが国指定の自然保護区とのバッファー地域になっています。ジャングルのような森が農園を囲み、コーヒーツリーの間を抜けながら斜面を上ると、美しい森に足を踏み入れることになります。この農園のほとんどのコーヒーツリーは深い緑に茂り、非常に健康的な状態でした。ツリーの健康状態に応じてコーヒーチェリーの実付きも豊かで、好調な生産が見込まれました。

Sagatsume一家は農園に変化があればすぐに対策を考え、即断即決するそうです。判断を遅らせるとコーヒーツリーに負担がかかるため、農園の状態を見ながら早い決断をすることが大切だと語ってくれました。Heyvisは「特別なことはしていないが、徹底してツリーのケアをすることが重要」と話していました。今後の展望について尋ねると「父親から引き継いで一緒に行っているコーヒー栽培が、自分たちに生活と富をもたらしてくれたので、同じように子供たちに農園を引き継ぐのが自分の役目」と答えてくれました。

農園訪問後に彼らの家を訪ねた際、生産者が直面する課題について話がありました。主に農園管理コストの上昇と、コーヒーへの支払いを受け取るタイミングのずれについてでした。その場で解決策は提示できませんでしたが、今後の買い付けにおいて考慮すべき重要なインプットとなりました。現地で生産者の意見や話を聞くことで、情報だけでなく自分自身の価値観もアップデートされていくのを感じます。私たちが購入しているコーヒーは全て人間関係に基づいて成り立っているため、良い面も課題も共有しながら未来へ進んでいく必要があります。

San Vicenteを後にし、翌日はMarcalaへ移動します。

後半へ続く。

 



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