
今年から、エチオピアで新しいサプライヤー、RAD BEST との取引を始めました。このコーヒーは、その RAD BEST から届く最初のリリースです。
私たちがエチオピアで買い付けを始めたのは2020年で、今年で6年目になります。毎年現地へ行き、できる限り同じサプライヤーから、その年のロットを実際にカッピングして選んでくる。そのやり方を続けてきました。これまでナチュラルを買うのは、その年に選ぶ銘柄のうち1種類ほど。それが今年は事情が違って、エチオピア全体の作柄の関係で、ウォッシュトが少なくナチュラルの多い年になりました。
現地のカッピングで印象に残ったのが、アルベゴナのコーヒーでした。標高の高い産地で、ナチュラルにありがちな発酵の香りがほとんど出ていません。果実味ははっきり感じられるのに、カップはきれいなままでした。ナチュラルの良いところだけが出ているように感じて、それで今年は思い切って、RAD BEST からの出荷をナチュラルだけで組みました。
このコーヒーを精製したのは、2022年に建てられたウォッシングステーションです。ステーションマネージャーの Shemelis Addisu さんを中心に、周辺の集落から集まってくるチェリーをここでまとめて精製しています。ステーションの仕事として挙げられているのは、持ち込まれたチェリーを品質ごとに分けること、ロットの記録をつけること、レイズドベッドで乾かすこと、そして技術と資金の面で農家を支えること。特別なことが並んでいるわけではありませんが、たくさんの農家のチェリーをひとつにまとめるロットでは、この4つが崩れないかどうかで品質に大きな差が出ます。
ステーションがこれだけ新しいことには、エチオピアの制度の変化が関係しています。2017年の改正で、民間のウォッシングステーションがECX(エチオピア商品取引所)を通さずに直接輸出できるようになりました。集落ごとのコーヒーが集落の名前のまま外へ出ていけるようになり、それまで名前のつかなかった土地に、ステーションが次々と建ち始めます。このあたり一帯はコーヒーの事業が始まってまだ5〜6年で、これから品質も生産量も伸びていく地域として期待されています。

ステーションがあるのは、シダマ州の東シダマ・ゾーンにあるアルベゴナ郡です。リフトバレーのアワサ湖から南東へ上がった高地にあたり、シダマのなかでもとくに標高の高い産地として知られています。ボチェサの畑は2,000〜2,230m。これまで私たちが扱ってきたエチオピアのコーヒーと並べても、かなり高いところで作られているコーヒーです。高いぶん気候は冷涼で、湿り気があります。シダマ一帯の年間降水量は1,200〜2,000mmほど。火山性の土壌と、日中と夜の大きな寒暖差がこの土地の条件で、チェリーがゆっくり熟すのは、この寒さのおかげだと言われています。
シダマは長くSNNPR(南部諸民族州)の一部でしたが、2020年に独立した州になりました。産地表記として「シダモ(Sidamo)」と「シダマ(Sidama)」が混在しているのは、この経緯によるものです。シダマはイルガチェフェ、ハラールと並んで、エチオピア政府が産地名を商標として登録した3つの産地のひとつでもあります。
コーヒーの名前になっている「ボチェサ」は、アルベゴナ郡のなかにある kebele(ケベレ)の名前です。kebele はエチオピアでいちばん小さい行政単位で、日本でいえば集落や字にあたります。
ここの農家が作っているのは、ガーデンコーヒーと呼ばれる形です。家のまわりの畑にコーヒーを植えて、エンセーテ(偽バナナ)や野菜、スパイスと一緒に育てています。一戸あたりの畑は1ヘクタールに満たないことがほとんどで、コーヒーだけを植えた農園ではありません。精製の設備も持たないので、摘んだチェリーはその日のうちにステーションへ運ばれます。ボチェサのステーションには800戸を超える小規模農家がチェリーを持ち込んでいるとのことで、ひとつのロットの後ろに、それだけの数の生産者がいます。

精製はナチュラルです。完熟したチェリーを手で摘んで、その日のうちにステーションへ持ち込みます。受け入れのときに水に浮かせるか比重で選別して、熟しきっていないものや欠陥のあるものを落とします。過熟や虫食いのチェリーは中身が詰まっていないぶん軽く、水面に浮いてくるので、この段階で分けられます。残ったチェリーをレイズドベッド(アフリカンベッド)に薄く広げ、定期的にかき混ぜながら乾かしていきます。乾燥にかかるのは12〜15日ほどで、気温と湿度によって前後するそうです。
ウォッシュトとの違いは、豆が果肉の糖分に触れている時間の長さです。水で洗って果肉を落としてしまうウォッシュトに対して、ナチュラルは実がついたまま2週間前後かけて乾いていきます。そのぶん果実の風味が強く出て、甘さも乗りやすくなります。ただ、その時間をきれいに通すには、かき混ぜの手を止めないことと、ベッドに広げる厚みを揃えることが要ります。均一に乾かないと、一部だけ発酵が進んで、ロット全体が濁ってしまいます。
たくさんの農家のチェリーをまとめたロットは、ひとりの生産者の顔で語りにくい分、ステーションの管理の質がそのままカップに出ます。誰からどのタイミングでチェリーを受け取るか、受け入れの基準をどこに置くか。新設のステーションで、そこがどこまで組み上がっているのか、これからどう向上していくのかが非常に楽しみなコーヒーです。
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